CONDITIONING MAGAZINE

石塚元太良 単純に好きなことが今でもつづいている

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【vol.1】 単純に好きなことが今でもつづいている。

2002年のエプソン カラーイメージング コンテスト大賞の受賞以降、パイプライン/ゴールドラッシュ/氷河といった独自のモチーフを、既成の枠にとらわれない撮影方法で切り取る写真家の石塚元太良さん。第1回目ではカメラマンを目指すきっかけ、そして2003年より彼を魅了してやまないパイプラインの魅力について話を聞きました。

何かをしながら引きこもるという矛盾とも言える行為にはまった。

――石塚さんの現在の活動内容を教えてください。

「アラスカという土地自体が僕にとって重要な撮影のフィールドで、具体的には『PIPELINE』シリーズと、100年前のゴールドラッシュの遺物を巡る『GOLD RUSH ALASKA』シリーズ、あとはカヤックを漕ぎながら氷河を撮影した『氷河日記』。その3つが今の作品の主要になります。」

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PIPELINE ALASKA©Gentaro Ishizuka

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Shoup Glacier (2016) ©Gentaro Ishizuka

――そもそも石塚さんがカメラを始めたきっかけは何ですか?

「もともとは映画関係の仕事をしたいなと思っていたんですけど、集団行動がうまくできないというか(笑)。誰かを説得したり誰かに説得されたりすることが苦手で、写真だったら1人でできるなと。暗室作業っていう、何かをしながら引きこもるという矛盾とも言える行為にかなりはまってしまって、自宅に暗室を作ってからは、映画関係の仕事をやりたかったことを思い出さないくらいにのめり込んでしまったんです。単純に好きなことを仕事にしたいなと思って、それが今でもつづいているだけなんです。」

――プロになろうと思ったのもその延長線上で?

「そうですね。20代後半まで写真では食べられなくて、いろんな肉体労働の仕事をしていて。ただ、20代前半に写真で賞をもらって、後戻りできない感じになっていったというか(笑)。職業ってそういうものだと思うので、もの好きで写真を撮って別の仕事をしている人もいるだろうし。今は写真家という仕事ですけど、プロになったきっかけと言うと賞を受賞して何となく外堀を埋められた感じですね(笑)。」

パイプラインって何かがフォトジェニックなんです。

――2003年からアラスカのパイプライン(石油や天然ガスを輸送するための管路)を撮影しつづけていますが、その理由は何なのでしょうか?

「パイプラインを撮っていると言うと奇妙に思われるんですけど、最初からパイプラインをアラスカで見て惹かれたわけではなくて、撮った写真を帰国して見返してみたら何か面白いなと思ったんですね。つまり、パイプラインって何かがフォトジェニックなんです。ある人はエネルギー問題のことを想起するかもしれないし、ある人は性的なモチーフに感じる人もいるかもしれない。日本文化が好きな知り合いのフランス人とかは"これは『間』を取っているんだろう"って言ったり、十人十色というか、いろいろな解釈ができるのが面白いなと思って、それに対してすごく可能性があるんじゃないかなと思ったんですね。カメラというものがこれだけ世の中に普及している中で、オリジナルのモチーフを探すのってすごく難しい。それが僕の場合はたまたまパイプラインで、それってちょっと孕みに近い何かというか。アラスカで撮影しているパイプライン、ゴールドラッシュ、氷河は、それなりに何かがフォトジェニックであるものだと僕は思っています。」

――広大な自然の中に人工物が佇んでいる違和感が何とも不思議でした。

「アラスカで大自然だけを撮れたらそのほうが美しいと思うし、本当はそれでいいのかもしれないですけど、職業的に写真家になろうと思ったらそれだけじゃいけないというか。これだけみんなが写真を撮っているのに何で僕は写真家だと言えるのだろうかと。そういうところを含めて考えると、ただ綺麗な写真を撮っているだけではまずいというか、何かしらの思考が必要なんだと思います。」

――パイプラインの中でも印象に残っている写真、シチュエーションは何ですか?

「やっぱり、アラスカの荒野をずっと走っている1280kmのパイプラインを追いかけている時はすごく面白かったですね。北極圏に行くことって普通はないだろうし、ブルックス山脈を越えるとツンドラと言って何もない平野がずっとつづいていて、その向こうにかすかにパイプラインが見えていたりする。クルマでずっと走ってパイプラインを追っていると、人ともほとんど会わないし、ちょっと不思議な気持ちになってくる。あるとき、パイプラインに"You went too far to north"と落書きされていたんです。アラスカのパイプラインって、カリブの大移動を邪魔しないよう2メートルくらいの高さに設置されているから、落書きできるような高さではないんですけど、"お前北に行きすぎだよ"という落書きを見て、北極圏に繰り返し来ている自分の行為に笑えたというか。それは面白い瞬間だった記憶があります。」

――パイプラインは他の国にもありますよね

「そうですね。今は他にアイスランド、オーストラリア、オーストリアでも撮っていて、4月からはグリーンランドに撮影に行こうと思っています。いつまでパイプラインを撮影しつづけるかは自分でもわからないんですけど、いろんな人が教えてくれるんですよね(笑)。こんな面白いパイプラインがあったよとか。そうすると、やっぱり行って撮ったほうがいいかなというか、見たくなるというのはありますよね。」

――撮影をバイテン(大判カメラの一種でフィルムの大きさが8×10インチ)で行う理由は何ですか?

「2次元ではない感覚というか、2.5次元のような解像感はバイテンにしか出せないですね。ピントを合わせるのにもすごく時間がかかるんだけど、撮っているときも現実を大きなカメラのファインダーの中で、彫刻しているような感覚になるんです。その感覚はバイテンじゃないと味わえないとなると、重くてもあまり気にならないですね。」

【vol.2】自然に対してアジャストする感覚。

北極圏での撮影をはじめ、海外での撮影が主である石塚元太良さんにとって、コンディショニングは決して切り離せない存在。数え切れない海外撮影を経て、彼が導き出した"削ぎ落とす美学"とは。そして、所有しているスポーツタイツのCW-Xのスポーツタイツについても話を聞きました。

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©Gentaro Ishizuka

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©Gentaro Ishizuka

余計なものを持っていかないのが重要なキーワード。

――海外での撮影は過酷な環境も多いと思いますが、どのような準備で臨んでいますか?

「アラスカで撮影する場合は、すでにクルマが現地に置いてあってキャンプ道具も揃っているので、すごくミニマムな装備で行きます。自炊しながら、よくクルマの中で生活している人とかいるじゃないですか。そういう、はたから見たらどうしようもない生活を撮影中はしています(笑)。余計なものを持っていかないのが、やっぱり重要なキーワードなのかな。GPSや衛星電話を持って行ったり、いろんな道具をぶら下げていたり、装備過多になる人って特に日本人に多いと思うんですけど、こと写真の旅はここで止まって撮るとか撮らないとか、決断の連続だから余計な物を持っているとブレるというか。」

――普段行っているトレーニングなどはないんですか?

「う〜ん、プールに行ったりするくらいですかね。僕は水の運動が好きで、自分に負荷をかけるようなジムのトレーニングはあまりできなくて。カヤックは撮影で使うんですけど、もともとやっていたわけではなくて氷河を撮ろうと思って突然アラスカで始めたんです。そのように、この寝袋じゃまずいとか、このテントだとまずいとか、少しずつギアが身軽になっていくという感覚はあるかもしれないですね。」

――とは言え、撮影には体力が要りますよね?

「そうですね。カラダができるまでにけっこう時間はかかりますね。去年の夏にアラスカへ2カ月間行ったんですけど、前半の1カ月よりも後半の1カ月のほうが写真が撮れていく感じがあって、都会の生活で染み付いたものが、野宿の生活をしているうちに削ぎ落とされる感覚で、そうするといい写真が撮れていくような気がしますね。」

――実際に現地に行ってそこで過ごすことで、コンディショニングがととのっていく感覚なのでしょうか。

「コンディショニングと言えばコンディショニングなんですけど、自然に対してアジャストする感覚というか、バイテンを背負って歩きながら撮影し始めると、贅肉とかがついているのにようやく気づくというか。すごくフィジカルな部分が僕は写真では好きなので、身体的な瞬間に出てくるアイディアを信じています。たとえば、ここはいい写真が撮れるんじゃないかって調べたアイディアより、自然の中でカヤックを漕いだりバックパックを背負っているときに、何となく思うこととか浮かんでくるアイディアを僕は信じていますね。」

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CW-Xのスポーツタイツをはくとスイッチが入る。

――撮影の中でのルーティンはありますか?

「ストレッチはけっこうするかもしれないですね。カヤックは僕にとってはすごく面白い運動で、スキーに似ているとも言われているんですけど、体幹をギューっとひねるんですよね。腰をひねる運動みたいなものを自然とするようになって、すると手が背中のほうに回ったりして"何かヨガっぽいな"って自分のポジションができたりして、自然とやっている運動がそういう風になったりすることはあると思います。」

――食事に関してはいかがでしょう。

「アラスカで1人で自炊をしているときは、びっくりするくらい単調な食生活をしていて、そのほうが撮影に集中できるし食事の献立とかあまり考えたくないんですよね。昼に乾麺を食べて、夜はお米を多めに炊いて、アラスカシャケが獲れるのでシャケがあったら最高だけど、なかったら味噌汁と梅干しだけ。それで余ったお米をおにぎりにして朝に食べるという。ベリーが自生しているのでビタミンは摂れるし、それだけで栄養過多にならず10日間は余裕でいけますよ。ただ、お米は焚き火で炊くんです。すると、それがエンターテインメントになって、1日の終わり感が出るしお米を食べるのもすごく楽しみになる。細い焚き木を拾ってきて"今日はすげぇ上手く炊けた!"とか、1人でそんなことを楽しんでいるんですけど(笑)、それもコンディショニングというか。米炊きってけっこう奥が深いんですよね。」

――石塚さんはCW-Xのスポーツタイツを所有していますが、撮影のときに着用することはあるんですか?

「一度、去年の夏にアラスカに持っていったんですけど、そこまで着用はしなかったですね。でも今はランニングをするときにはいているんですよ。何だろう、はくと走らなければいけないような気持ちになりますね。スイッチが入るというか。まだ試してないんですけど、伸縮する動きがカヤックに合うかなと思うので、今後使ってみようと思っています。」

【vol.3】 "呼吸"は僕にとって大きなテーマ。

2017年秋にドイツのSteidl社より写真集『GOLD RUSH ALASKA』を出版予定など、国外での活動にさらなる意欲を見せる石塚元太良さん。最終回では、興味深いエピソードが満載の熊との対峙から、彼にとって大きなコンディショニングのひとつである"呼吸"について、そして今後の展望について語ってもらいました。

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Surprise Glacier (2016) ©Gentaro Ishizuka

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©Gentaro Ishizuka

呼吸はコンディションを上げるきっかけになりやすい。

――これまで撮影をしてきた中で最大のピンチは何ですか?

「話として面白いのは熊に遭遇したとき。無人島にカヤックで上陸してカレーを作ってたんですよ。カレーって荒野でクッキングしていると、尋常じゃないくらいスパイシーな匂いがするんです。ルーをお米にかけて食べようとしたら、何か気配がするなと思ってチラッと見ると、数100メートルくらいの距離に若くて黒い熊がこっちを見てるんです。アラスカでキャンプをするときの掟があって、寝る場所とクッキングをする場所と移動手段のカヤックをそれぞれ遠くに離さないといけないんです。寝る場所がダメになっても食事はできるし移動もできる、食事がダメになっても寝る場所もあるし移動もできる。それは鉄則なんですけど、無人島だしすごくお腹が空いていたのもあって、テントも食料もカヤックも全部がそこにある状態。熊ってすごく頭がいいから、一気に飛びかからないで迂回しながらにじり寄ってくる。逃げるわけにはいかないから、どうしようかなと思って石を投げ始めたんですね。でも熊って動体視力がなくて、僕が石を投げていることと、近くて石がヒュンっていっていることが結びつかないんですよ。僕も思いきり石を投げていたのでコントロールがおかしくなってきて、石が熊に当たってしまったんです。その瞬間、"こいつ何か飛び道具みたいなものを投げてないか"って気づいてちょっと怯み出したんですよね。このチャンスを逃したら絶対に逃げられないと思って、カヤックを抱えて海辺に行って、ベアスプレーを撒き散らしたらクマがどんどん後退していったので、荷物を全部抱えてカヤックで脱出して。それが夜の10時とかで、そこから陸まで1時間半くらい暗い中を漕いでいたときは人生で最悪の夜というか(笑)。でも、最後に熊が立ち上がったんですよ。立ったら2メートルくらいあって、爪とか胸のあたりのビロウドの感覚とか、怖いんだけど生き物としてすごく美しいんですよ。それはすごい瞬間というか、自然に対しての考え方がまた変わりましたね。」

――一般の方でも取り入れられる、パフォーマンスを上げる方法はありますか?

「深呼吸ですね。七息思案という言葉があって、重要なことを決めるには7回呼吸してから判断するといいという意味で、都会で生活している人のリズムからすると、深呼吸を7回するのはけっこう長い。特にスマートフォンとかを触っていると、ほぼ深呼吸や呼吸をしていない状態というか。でも、単純に7回深呼吸をするだけで、日常のパフォーマンスが上がるような気が僕はするというか。アラスカの自然の中で撮影しているときは、そんな時間がいくらでもあるので、7回でも70回でもすればいいんですけど(笑)。"呼吸"は僕にとって大きなテーマで、息が想起させるものって蒸気とか、パイプラインももしかしたらそうかもしれないけど、すごく惹かれるものがありますね。」

――たしかに深呼吸って普段はあまりしないですよね。

「そうですよね。カヤックに乗っているときって暇だから、単純なことを暇つぶしに使うんですけど、それがコンディションにもつながるし余計なものも要らなくなる。視覚ってすごく自分の状態が出やすいというか、聴覚や嗅覚はもしかしたらそうじゃないかもしれないけど、見たいものが見えなかったりするときってやっぱり自分の状態が良くないときだったりする。そういう意味で自分の呼吸はバロメーターになりやすいというか、コンディションをすぐに上げるきっかけになりやすいものかなと思いますね。」

――ヨガも呼吸と密接な関係にありますよね。

「ストレッチ自体が呼吸そのものだと思うので、大きく息を吐ければそれだけカラダも柔らかくなると思いますね。バイテンも風が吹いているとあまり撮影できないんですよ。だから風を意識するようになったし、それも呼吸につながっているような感覚がありますよね。」

価値観とか常識とか美意識が違う人や環境で写真を見せたい。

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――今後の展望について教えてください。

「現在、具体的に撮影しているものがあって、それは必ず作品という形で終わらせたい気持ちはあるんですけど、それとは別に、写真って世界的な共通言語なので、写真をやっている以上は海外で展示したり写真集を出したり、日本の外でもっとコミュニケーションを取りたいという気持ちはあります。アラスカでの撮影がひと区切りつきそうだというのも含めて、そういうタイミングに自分が差し掛かっているんだろうなという感覚もあるし、今年の秋にドイツのSteidl社から写真集を出したりするので、常識とか美意識とか価値観が違う人や環境で写真を見せることで、もうワンランク写真のレベルを上げたいっていう思いは、すごく真面目な話なんですけど(笑)目標やモチベーションとしてありますね。」

――最後に、石塚さんにとってコンディショニングとはどのような存在でしょうか。

「一生つづくものですかね。コンディションをいい状態に保ちつづけるのってすごく難しいし、いいときもあれば悪いときもあるだろうし、どちらの状態でもコンディショニングって重要だろうし。そう考えると、きっと死ぬまでつづいていくのかなって。若いときって、コンディションに波があってもあまり気にしないですよね。僕は今年で40歳になるんですけど、30代後半からコンディショニングについて考えるようになったのかもしれないですね。それまでは自分のフィジカルでカバーできると信じていたし、実際にできていたと思うし、でもそういうのができなくなるのが30代後半で何となくわかり始めるんじゃないかな。個人差はあるだろうけど。そうなると、コンディショニングを整えようと気にするようになる。本当はそんなこと気にしたくないですけど、老いとの付き合い方なのかもしれないですね。」

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文/溝口元海

写真家 石塚元太良氏の展覧会 «panorama»記事へ

25TH 限定商品VOL.3 GENTARO ISHIZUKA SPECIAL DESIGN

【PROFILE】


1977年生まれ、東京都出身。

10代の頃から世界を旅行し始め、2002年にアジアを縦断しながら撮影した『Worldwidewonderful』でエプソン カラーイメージング コンテスト大賞を受賞。

2003年にビジュアルアーツフォトアワード大賞、2004年に日本写真協会賞新人賞を受賞。

同年からアラスカのパイプラインを撮影し始め、2006年に発売された写真集『Pipeline Alaska』が話題を集める。

2013年、パイプラインプロジェクトの代表作『PIPELINE ICELAND/ALASKA』を刊行し、翌年に東川賞新人作家賞を受賞。

パイプライン、氷河、ゴールドラッシュなどの特定のモチーフで独自のランドスケープを世界中で撮影し続ける彼のスタイルは、コンセプチュアル・ドキュメンタリーとも評され、ドキュメンタリーとアートの間を横断するように、時事的な話題に対して独自のイメージを提起している。


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